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2018年11月 6日 (火)

がんとハーブと寄生虫

先日、某所でとある本を読んでいたところ、ハルダ・R・クラークなる人物が「がんの原因は寄生虫だ」と述べている、との記述を発見しました。

気になったので少し調べてみました。

そして見つけたのがこの本です。

ハーブでガンの完全治癒

ネットには70万部売り上げたベストセラーなどと書いてあるサイトもありましたが、既に絶版になっているらしく、図書館から借りてきました。

この本によると、ファシオロプシス・ブスキー(Fasciolopsis buski)という腸内吸虫が、イソプロピルアルコールなどの化学物質の影響により腸内から肝臓に移動した結果、がんが発生する、とのこと。

なので黒クルミの殻のチンキ・ニガヨモギ・クローブ、この3つのハーブで寄生虫を駆除することで完全治癒する、と。

そしてファシオロプシス・ブスキーは化学物質によりあちこち動き、他の器官に移動するとまた別の病気になるのだそうです。

え?

あまりに突拍子もない内容なので最初は驚きました。

しかし、

ヨモギには抗腫瘍活性のある化合物が含まれていることは知っていましたし、寄生虫ががんの原因となっているケースもあることも知ってはいましたので、半信半疑で読んでみました。

が…。

この本、間違いが多すぎます。

まず、著者ががんの原因とする寄生虫、ファシオロプシス・ブスキー。

医科学事典で調べましたところ、日本語では「肥大吸虫」。1843年にイギリスのBuskがインド人水夫の腸内から発見した吸虫です。水生植物に付着したメタセルカリアを経口摂取することにより感染します。

分布は中国、台湾、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、インドなど東洋に限られています。水生植物(ヒシの実など)や豚から感染します。アメリカやカナダのがん患者から検出される可能性は、かなり低いのではないでしょうか。

しかも、大きさは20~75mm×8~15mm。この大きさで、腸内から肝臓や他の器官への移動は難しいと思います。



でも、他の寄生虫を調べてみて分かったのですが。

ハルダ・R・クラーク先生…もしかしたら、寄生虫全てを混同されてないでしょうか?

例えば、肥大吸虫と同じ科に肝蛭(かんてつ Fasciola hepatica)という吸虫がいます。肝蛭は牛や羊などに寄生する吸虫で、肝臓に寄生します。これは欧米諸国で多く確認されています。

肝吸虫はタニシや川魚の生食などで感染し、胆管がんを発症するケースもあります。ハムスターを使った実験では、タイ肝吸虫とジメチルニトロソアミン(発がん剤)の投与で100%胆管がんを発症するとの報告があります。

肺吸虫はサワガニやイノシシ肉などから感染し、その症状は肺がんに類似し、皮下など他組織へ迷入することもあり、脳に迷入すると重篤な神経症状が出るのだそうです。

住血吸虫の中には膀胱周辺に寄生するものもあり、膀胱がんの確率が30倍になる他、女性だと子宮頚部や卵管などに病変を生じることもあるそうです。

日本住血吸虫は脳血管内に虫卵が塞栓すると脳腫瘍類似の症状となり、大腸がんと肝細胞がんの発生が高まるとも言われていました(否定的見解も出ているようです)。

また近年、ダニ媒介寄生虫であるタイレリアやボレリアがリンパ球をリンパ腫に変換させたり、クリプトスポリジウム原虫と大腸がんの関連が指摘されたりしています。

(同じリンクが貼ってある箇所がありますが、リンク先が長文なので、書いてある箇所が違うだけです。間違いではないのでよく読んでくださいね。)

残念ながら、乳がんと寄生虫の関連を示す文献は見つかりませんでした。しかしこうして調べてみると、肥大吸虫は間違いであっても「寄生虫ががんの原因である」という説はあながち間違いでもなさそうです。



では、この本に書いてある寄生虫駆除プログラムは、有効なのでしょうか?

黒クルミの殻、ニガヨモギ、クローブを使った駆虫方法。



これらのワードで検索しただけでは、残念ながら有効な情報は得られませんでした。

何故なら、これらのサイトは皆「ハーブでガンの完全治癒」そのままの内容ぐらいしか書いてないケースが殆どだからです。



なので、他の単語で調べてみました。

すると、面白いことが分かりました。



これらの3つのハーブは、漢方薬にも似たものが存在しました。

まだ青いうちの黒クルミの殻は「胡桃青皮(ことうせいひ?ことうじょうひ?)」、ヨモギは種類により「艾葉(がいよう Artemisia princeps Pamp ? Artemisia vulgaris ? )」「青蒿(せいこう Artemisia annua ? オトコヨモギ、カワラニンジン、クソニンジン)」「苦艾(くがいArtemisia absinthium ニガヨモギ)」があり、クローブは「丁香(ちょうこう)」と呼ばれています。ヨモギの学名は分類学者によって異なるそうで、はっきりしません。



中医学では胡桃青皮は殺菌、解毒、殺虫などの効果があると言われています。また、クルミの成分の一つであるJuglone(ユグロンまたはジュグロン)にはアレロパシー活性(他の生物の成長を阻害する作用)があり、体内での寄生虫や真菌の増殖を抑制するそうです。最近ではPin1阻害剤として使用することで抗がん活性が認められています。Pin1とはプロリン異性化酵素、Pin1が高発現しているがん患者は予後が悪く、特にアンドロゲン非依存性の前立腺がんへの効果が期待されるようです。



ヨモギは昔から万能薬として使われていました。艾葉は止血、鎮痛などの効果があり、青蒿はマラリアに効果があるそうです。

マラリアは細菌やウイルスによる感染ではなく「マラリア原虫」に感染することで発症します。これも寄生虫の一種で、蚊が媒介します。

青蒿の成分の一つであるArtemisinin(アルテミシニン)から抗マラリア薬を開発したのは中国中医研究院中薬研究所の屠呦呦という女性研究者のグループです。

ベトナム戦争の際にベトナムからマラリア薬の開発を依頼された中国が国家プロジェクトとして抗マラリア薬の開発を開始、古来から抗マラリア薬として使われていた植物など多数試して、ようやくヨモギの抽出液からアルテミシニンを発見、単離抽出。しかしその安定化などに苦労したようです。現在はその誘導体が抗マラリア薬として利用されており、その功績により屠呦呦は2015年のノーベル医学・生理学賞を受賞しています。



近年、アルテミシニンは抗腫瘍活性があるとの報告が相次いでいます。乳がんにも効果があるようです。マラリア原虫との関連は分かりませんが、実用化を期待します。

ニガヨモギからはサントニンという回虫駆除薬も作られました。1830年代にサントニンを単離精製したのはドイツの研究者メルク。そう、あのMSDのメルクです。今はもうサントニンは使われていないようですが。



丁香(クローブ)にはEugenol(オイゲノール)という成分が含まれています。オイゲノールは動物用鎮痛剤として広く使われていますが、防虫効果やヤギの寄生虫の殺卵効果があるとの報告があります。肺がん乳がんに対する抗がん活性も報告されています。しかし毒性もあるようなので多用は禁物ですが。
さて…

こうして調べてみると、「黒クルミの殻」「ニガヨモギ」「クローブ」を「寄生虫駆除」または「がんの治療」に使うというのもそれほど的外れな話ではないように思いました。

もちろん、有効成分が含まれるとはいっても精製はしていないわけですから効果は弱いでしょう。ステージが進んでしまうと難しいかもしれません。

しかし初期のがんなら、治る可能性もあるのでは?特に消化器系のがんは経口摂取の成分が効きやすいので、ダメもとで試してみるぐらいの価値はあるかもしれません。

ちなみにこれらのハーブ、ネットで購入可能です。



ハルダ・R・クラーク博士、「ファシオロプシス・ブスキー」なんて珍しい寄生虫持ち出してきたのは、もしかしたら「言葉遊び」だったのではないでしょうか?

ファシオロプシス・ブスキーの英語名は「giant intestinal fluke」。吸虫を意味する「fluke」は、ビリヤードで偶然ポケットに球が入ったことを意味する「fluke(日本では『フロック』)」と同音異義語で、「まぐれ」と訳されたりします。

虫下しに効く民間薬が偶然、がんにも効くものだった。そんな意味を込めて、違うと知っていてあえてファシオロプシス・ブスキーを出してきた。そんな気がします。

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    厚生労働省が平成24年に発表したもの。これによると、治療せずに様子を見る「経過観察」はしちゃダメ!なのかな?なんで?w
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    食事療法については何も載っていません。アルコール摂取を控えましょう、肥満に注意しましょう、ぐらい。

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