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2019年7月31日 (水)

乳がん患者がやるべき身体活動

前回は「身体活動量と乳がん死亡リスクに関する論文」と「乳がんヨガ」との関連について、殆ど関係ないのにエビデンス扱いしていること、乳がんヨガは効果が明らかでないこと、などを書きました。

では、乳がん患者は何をしたらいいか?

今回は乳がん患者である私自身の経験から、そのあたりを書いてみたいと思います。



乳がん患者と一口に言っても、人それぞれ、症状も治療法も生活習慣も細胞診の結果も様々です。

なので

「乳がん患者だから」アレをすべきコレをすべき、ってのはあまりありません。

もちろん、生活習慣が乱れていたからこその病気なので、生活習慣を正す、というのは重要です。環境ホルモンの除去は特に。



乳がんの場合は侵襲性の高い治療が多く、QOLの低下は確かに問題であり、QOL維持のための活動をした方がいいのは確かでしょう。

しかし一口にQOL低下と言っても、状況は様々です。

なのでQOLを向上させる方法もまた、様々なのですよ。



私は先日、乳房全摘出手術を受けました。

というわけでまずは手術によりQOLがどう変化するかについて。



「乳がんの手術」と一口に言っても、腫瘍の大きさや転移状況などによりいろいろあります。



「非浸潤性胆乳管がん」などの転移もなく進行も遅く、かつ腫瘍サイズも小さい乳がんの場合、部分切除術が可能です。

この場合は入院期間も短く済みますし、手術後のリハビリもほとんど必要ないと思います。

腫瘍の個数や位置にもよりますが。



腫瘍が大きい場合や転移がある場合は、部分切除ではなく乳房全摘出となります。

皮膚浸潤を最小限に抑えるため、乳房周辺の皮膚はざっくり切り取ります。そして皮膚を無理やり引っ張って縫合します。

そのため、手術した側は肩が前に入り猫背気味になります。

手術の傷が治った後、リハビリを行った方がいいでしょう。

また、乳房の大きさにもよりますが、左右の重さのバランスが崩れるのでそれを正すのが大変、という方もいらっしゃるようです。



リンパ転移がある場合はリンパ郭清を行います。

この場合、郭清の度合いにもよるでしょうが、リンパ浮腫のおそれがあるのでリンパドレナージは必須です。

また、私のように神経を切られたりすると運動障害も残りますので、地道なリハビリは必要です。

しかし、汗を大量にかくような運動は避けなければいけません。リンパ浮腫になりやすくなります。

また、郭清した側の腕を圧迫すると良くないので、そのあたりも考慮すべきでしょう(加圧トレーニング不可)。



ハルステッド手術(大胸筋まで切り取る大手術)を行った場合については、どうなるのか、私にもわかりません。

術後の外見は、あばら骨が浮いたような状態になるそうです。

運動障害はどのくらい出るのでしょうか?かなり大変なことになるであろうことが想像できます。

数十年経っても痛みやしびれが出るという証言もあるようです。



これが右乳房のみか左乳房か両方か、でも違いますし、右と左で術式が違うケースもあります。

また、乳房再建術を受けている人もいます。保険適用になってから受ける人が増えたようです。

インプラントを使う人も、自家組織で再建する人もいます。

自家組織での乳房再建の場合、使う組織の元をとる背中やお腹や足などに傷が出来ます。これによっても対応が変わります。

インプラントでの再建の場合、何度か手術し直す必要があるそうです。

最近、シリコンインプラントの中に特殊なリンパ腫を引き起こすものがあったのでメーカーが対象製品を自主回収した、というニュースがありました。シリコンの方要注意です。

ちなみに私は、乳房再建はしていませんが、右側の植皮のために腹部を切りました。なのでお腹はまだ伸ばせません。



手術だけでこんなにいろいろあるのです。



そのため、リハビリは病院で行うのが良いでしょう。

病院でのリハビリは、理学療法士や作業療法士などの資格のある方が行います。

リンパドレナージは、研修を受けた看護師などが患者に指導します。

理学療法士、作業療法士、看護師はいずれも指定の学校を受験して、合格したら数年通って勉強して、国家試験を受けなければならないという取得が大変な資格であります。そういう信頼できる資格を持っている上に、病院での業務で毎日何十人もの患者さんの対応をしている、そういう方々です。

カルテも共有しているでしょう。そして何かあった場合の対応方法も知っています。

彼らは、安全です。もちろん「中には怪しい人もいる」という可能性は否定できませんが、それはどの職種でも同じです。



一方、ヨガに関しては国家資格はありません。

「乳がんヨガ」はただの民間資格です。指導者養成コースは1日7時間3万円だそうです。受講資格は特になく、誰でも受講料払って参加すれば、試験などもなく免状がもらえる、そういう資格のようです。

「乳がんヨガ」限定ではない一般的なヨガインストラクターの資格としては「全米ヨガアライアンス200」というものが有名です。これは、200時間の講座を受ければ取れる、というものです。1日8時間として25日。1カ月かかりません。最短では18日あれば取れるそうです。

200時間+7時間の講座でがん患者を相手にすることに、不安は感じないのでしょうか?少なくとも、個別対応できるだけのスキルがこれだけで身につくとは思えません。

ちなみに、全米ヨガアライアンス以外にもヨガ資格出してる団体は山ほどあります。指導者養成にかかるコストも時間もまちまちです。当然、スキルのレベルもまちまちです。



話を戻しますと

手術のみならず、化学療法に関してもさまざまな種類があります。化学療法はQOLが下がるとよく言いますが、一体どんな副作用が出るのかが問題です。髪は抜けるのか、しびれはあるか、吐き気やめまいはあるか、免疫落ちて感染しやすくなってないか、などなど。

薬によって、かなり違います。

私の場合、最初の抗がん剤(EC療法)は髪も抜けたし体重は極端に減るし体力落ちるし不正出血もあったし目は悪くなるし爪は黒くなるし最悪でしたが、今飲んでいるTS-1は副作用はあまりありません。わずかに吐き気がして便が緩む程度です。

腎臓や肝臓に悪影響が出たり、手足にしびれが出たりなどもあるそうです。

ホルモン治療をしていると、関節痛(関節への負荷考慮)、骨粗鬆症(骨折のリスク)、ホットフラッシュ(体温調節困難)、血栓ができやすい(脳梗塞や心筋梗塞のリスク)などが出たりします。

他にも

放射線治療を行っている場合、その種類(X線、陽子線、重粒子線等)や強度によっても副作用(疲労感、皮膚炎など)の出方が違います。

皮膚にマジックで線を書いたり、皮膚の色が変わったりするので、薄着になりたがらない人もいるでしょう。そういう相手を気遣うことが出来ますか?

切らずに治す治療法としてラジオ波焼灼術や冷凍凝固療法、FUS(MRIガイド下収束超音波療法)などがありますが、これらについてその治療跡がどうなるのか、胸を開いて伸ばしたりするのは施術後どのぐらい経ってから可能なのか、把握しているのでしょうか?

また、免疫療法やビタミンC点滴、丸山ワクチンなど、代替療法もさまざまあります。それぞれ治療前後の注意事項は違うはずです。無治療の方、漢方やサプリなどの使用も含めますともう十人十色、千差万別です。

他の疾患での症状や服薬の状況なども違いますし、閉経前か後か、年齢、肥満度、体質の違いなども含めますと、まったく同じリハビリを要する人などまず、いないのです。



乳がんは転移再発しやすい病気です。本人も知らないうちに骨転移していてホルモン治療と相まって骨が弱ってしまっていて、たまたまヨガを受けたら骨が折れてしまった、というケースもあり得なくはないと思います。きちんと想定して対策を考えているのでしょうか?

万が一トラブルが発生しても(副作用で嘔吐したり出血したり半月板損傷したり蜂窩織炎になったり)、理学療法士や看護師が病院内で行っているのであれば対応は可能でしょう。医師もすぐそばに控えてますし。

しかし一般のヨガインストラクターが、ヨガスタジオや自宅で行った場合はどうでしょう?救急車呼びますか?



しかも、病院スタッフは忙しいのです。毎回来てもらうのではなく、自宅で自分で出来るようなリハビリ方法を教えてくれます(病院にもよりますが)。

乳がんヨガのような「教室」だと、毎回通う前提です。でないとインストラクターが儲からないから。

そして、集団でいると、どうしても他の人と自分を比べたりしますよね。

「あの人、私より後に手術受けたのに、もうあんなに元気そう。私は全然動けないのに…。」

「あの人、同じ薬使っててなんであんなに副作用軽いんだろう。私は酷いのに…。」

よりケアを必要とする(QOLが低下してる)人ほど、嫌になってしまったり、無理して動き過ぎてしまったり。

ナーバスな患者達の気持ちをうまくくみ取れるインストラクターならいいと思いますが、ヘタなこと言ってしまうとかえって患者を落ち込ませることにもなりかねません。

で、自宅で自分でやりたければ「3万円払って資格取れ」、ってことになるわけです。



「乳がん」そのものの治療には直接は関係しない「QOL向上」だけなら、「乳がんヨガ」に限らず好きなことをすればいいと思います。

激しすぎない、ウォーキング程度の身体活動ならエビデンスもあるわけですから、ウォーキングでもいいと思います。捻ったりしないので怪我の心配はありませんし。他にもやりたいものであれば、医師と相談の上、本人の責任においてやればいいと思います。やりすぎは禁物ですが。

「ずぼらヨガ」的なゆる~いヨガを自分でやってもいいし(乳がんヨガもずぼらヨガと大して変わりません)。



運動でなくてもいいのです。アメリカのMDアンダーソンがんセンターでは音楽療法や鍼なども行っているそうですし、韓国の病院では園芸療法などさらにいろいろな補完療法を行っているそうです。

「乳がんヨガ」を信じて受けるのであれば、QOL向上には寄与することは分かります。しかし信じていない人、あるいは逆に乳がんヨガに対して過剰な期待を持って受けに来てしまった人(私がそうでした)だと、ストレス溜まって逆効果の可能性もあるんですよ。



私には「乳がんヨガ」は乳がん患者やヨガインストラクター資格保持者をカモにした詐欺のようにしか見えないんですよね…。その理由はまた次回、詳しく書こうと思います。


2019年7月25日 (木)

論文と乳がんヨガ

前回、こちらの論文に関する考察を書きました。

私の考察をざっくりまとめますと

「運動しすぎると悪化する可能性があるのに無視してんじゃねーよ!」

ということなのですが

この論文、もともとは「乳がんヨガ」のサイトにリンクが貼られていた、厚生労働省の統合医療に関するパンフレットから参考文献ひいてって見つけたものです。

そこで今回は、この論文と乳がんヨガとの関連について書いてみたいと思います。



論文のレファレンスの30番の付表に、どういう運動をするとどのぐらいの活動量になるかという数字(MET表)が載っています。

それによりますと、「ヨガ」は02100にConditioning exercise,Streching Hatha yogaとして4.0と記載されております。なので身体活動量としては、週に1時間行ったとして4MET/wk。

少し早めのウォーキング(3.5mph)と同じぐらいの運動量ですね。しかしこれは「ハタヨガ」の場合です。




レファレンス38では、運動群は1日45分の有酸素活動を含む身体活動を行い、週平均171分活動したそうですが、

この時の対照群(比較のための集団。この場合は運動しなかった人達の群)は、週に45分未満のストレッチ、それ以上の運動はしない、という条件でした。



…って…。

この文献では、週に1時間弱程度のストレッチは、身体活動に含まれない?

ならば、病院での月1時間の「乳がんヨガ」って、この論文とは殆ど関係ないのでは???



そりゃ、身体活動量が多いヨガもあります。太陽礼拝の間にいろいろなポーズを入れ込む「アシュタンガヨガ」などは結構汗かいたりしますよね。

しかし、乳がんヨガは「リストラティブ系」なんだそうですよ。

リストラティブヨガってこんなのです。

(私が受けた乳がんヨガはそうではなかったのですが。ブロックもブランケットも使いませんでしたし。何しろ空手パンチもどきとため息呼吸でしたからw )

この「リストラティブヨガ」。

折りたたんだブランケットの上に寝転んだり、ブロックやボルスターで身体を支えたり。

座ってるか、寝転がってるか、うつぶせになってるか、壁に寄りかかったり、もたれかかったりしているか。



この内容で

いったい

どのぐらいの

「 身 体 活 動 量 」が

あると

思いますか???



寝ている状態(07030 Inactivity, Quiet Sleeping 0.9MET)に近いのでは?????



ヨガというのはもともと何でもありです。

ポーズによってはストレッチにも筋トレにもなりますし、ポーズを連続して行えば有酸素運動にもなります。

しかし「リストラティブヨガ」に関して言えば、有酸素運動の要素も筋トレの要素もありません。

殆ど動かず、リラクゼーションのみ。ストレッチ要素もわずかしかない。



そういう乳がんヨガの説明に、「身体活動量と死亡リスクの相関」に関する論文を大元にしたパンフレットへのリンク貼り付ける、って

BCYIの皆様、一体、何を考えてるんでしょうか?????



もしかして、根拠となる本や論文、読んでなかった?????

仕事として、「乳がんヨガ」やろうって人達が、

これから全国展開していこうっていう「BCYI」立ち上げた人達が、

誰一人として、

読んでない??????????

えっ?

まさか!!!!!



いやいや…

多分、サイトのパンフと本ぐらいは読んでたんですよね。読んでたけど、医師が書いてるんだからと信用してた。

それとも、論文も読んでみたけどわからなかった。

或いは、論文の中身は把握したけどリストラティブヨガとの関連は考えなかった。

もしかして、読んで中身もしっかり把握して、まったく関係ないインチキな論文だと分かってはいるけども「厚生労働省が推してるんだから」患者さんのためになろうがなるまいが、べつにいいかぁー、とりあえず貼っとけ!という感じ???



いずれにせよ

乳がん患者のことをきちんと考えて、やってるようには見えないんですよね。



「利益相反」という言葉があります。

英語ではconflict of interest(COI)。

直訳すると「利害の対立」。

どういう意味かと言いますと

例えば医学の研究者であれば、科学的客観性の確保や、患者や被験者の利益を保護するという「責任」がありますが、

資金の提供元(企業や国など)にとって有利あるいは不利になる可能性がある場合に、「公正であるべき」研究結果の判断に影響をもたらしかねないと懸念される状況を意味します。

なので、最近の論文には資金の提供元を明示する決まりになっています。



乳がんヨガで言えば

彼らは「乳がん患者の利益」よりも、ヨガ団体の維持発展或いはインストラクターの収入という「組織や個人の利益」のため、指導内容の検証がおざなりになっているのではないかという懸念がある、ということ。

少なくとも、私が客観的に判断した限りでは。

しかし私自身も「乳がんヨガ」の体験クラスを受けた際、「ため息呼吸」などという「ヒトのことバカにしてんのか?」と思わざるを得ない対応を受けた経験から「乳がんヨガ」に関してはマイナスイメージしかないのです。なのでここは第三者の方から見たら懸念材料かもしれませんけど。

ついでに書いておくと、「空手」のMETスコアは10です(15430)。「グーパー空手もどき」はどのぐらいか分かりませんが。



リストラティブヨガを「乳がんヨガ」として広めたいのだったら、呼吸法やメディテーション、リラクゼーションが乳がんにどういう影響を与えるのかを医学的に証明すべきだと思います。

しかし、彼らはそれをやろうとしない。

出来ないからでしょう。

彼らの知識の浅さでは、無理です。乳がんに関してもヨガに関しても。



「乳がんヨガ」のサイトにコメント寄せてるお医者さん達も、このくらいのアドバイスしてあげればいいのに。

ま、こんなことしても何のメリットもないってことで、衝突を避けて言わないだけだろうけど。

お医者さん達も私のブログ読むまで、彼らが出してきたエビデンスの意味のなさに気付かなかったのかもしれないし。

もしかして乳がんヨガのサイト自体もこのブログも読んでなくて未だに何も知らないかもしれないし。

何しろ「乳がんヨガ」だもの。とりあえず勧めるようなコメント出しておけば、「乳がんヨガ」に釣られた乳がん患者が自分の病院に来てくれるかもしれない、ぐらいの感覚なんでしょうね、お医者さん達。



あーあ。

こういう所でも乳がん患者はバカにされている。「カモ」としか思われてない。

乳がん患者の皆様、気を付けてくださいね。騙されないように。

次回は「では乳がん患者は何をすべきか」を語ってみたいと思いますので、よろしくお願いします。

2019年7月24日 (水)

論文の読み方 考察編

これまで何度かに分けて、下記の論文についてどういう内容が書かれているかレファレンスの内容は、著者らの他の論文は、などの解説をしてきました。

Physical Activity and Survival After Breast Cancer Diagnosis

今回は、私はこの論文をどう読むか?を書いていきます。かなり批判的な内容になってます。

もちろん異論はあるでしょう。

しかしレファレンスや関連情報からは、私には下記のようにしか受け取れないのです。ご意見のある方は、コメントにてお願いいたします。



論文の主旨は、わかりやすく説明するとこんな感じです。



アメリカ看護師調査(Nurse's Health Study、以下NHSと略す)回答者の中から乳がん患者の記録を調べた結果、

1.運動している患者の方が乳がん死亡リスク、再発リスクともに低かった。

2.ホルモン感受性のないER-HER2+の患者の乳がん死亡リスクは、ホルモン感受性のあるER+の患者の乳がん死亡リスクより高かった。

3.よって運動で死亡リスクが下がるのは、エストロゲンレベルが低下するからであると思われる。参考文献にもそう記載されている。

4.より運動量が増えれば乳がん死亡リスクもより下がると予測したが、15MET/wk以上は横ばいだった。

5.乳がん患者も一日30分以上のエクササイズをすべき。



さて、これらの主張は正しいのでしょうか?



まず、1.の乳がん死亡リスク、再発リスクですが、確かに週9METまでは、身体活動量が増えると死亡リスクも再発リスクも下がる、という結果になっています。

おそらく、エストロゲンよりもむしろインスリンが関係しています(レファレンス40参照)。

ウォーキングなどの軽い運動でインスリン抵抗性が改善され、筋肉が糖を取り込むので血糖値が下がります。その結果、がん細胞に栄養(糖分)が回らなくなったためにがん細胞の増殖が抑えられた、そういう可能性があります。

一方、 運動強度が大きい場合、あるいは運動時間が長く及んだ場合、グルカゴン、カテコールアミンなどのインスリン拮抗ホルモンの分泌が増加し、これらの影響により、血糖値は上昇してしまうそうです。だからやりすぎると効果がなくなります。


そして、週平均の身体活動量が「ゼロ」という人はいったいどういう人か?についても考えてみましょう。

おそらく、体調が悪化して、動けない状態の人です。

病気の進行により、或いは治療の副作用により寝たきり状態であった場合など、死亡率が高いのもやむを得ないように思います。

毎日10分のウォーキング(3MET/wk程度)が出来る程度の人はそういう人達より死亡率が低い、さらに毎日30分程度のウォーキング(9MET/wk程度)が出来る程度に動けるくらい症状の軽い人は、もっと死亡率が低い。

ある意味、当たり前の話のような気もします。体力がある人の方が手術など侵襲性の高い治療に耐えられますし。




2.のHER2+については、年代が問題となります。

この論文で扱ったNHSのデータは、1986年から2002年6月のものまで。

HER2+適応の分子標的薬ハーセプチンがアメリカで認可されたのは1998年。全16年の調査期間中、使われたのは最後の4年間のみです。

使用が広まるまでの期間を考慮すると、調査対象中のHER2+の患者さん達のうち、ハーセプチンが使われていない人は8割以上いるであろうことが予測できます。

そう、この論文でのHER2+死亡者というのは、殆どがハーセプチンの製品化に間に合わず、古いタイプの抗がん剤が使われた可能性が高い患者さん達なのです。

おそらく、1998年前後でHER2+患者の生存率はかなり変化していると思われます。

そして論文が出たのは2005年。

ハーセプチン以前の記憶が薄れてきた頃です。この著者まで忘れてしまっていたのでしょうか?



3.のエストロゲンに関しては、レファレンス編で説明しましたが、女性アスリートの話(レファレンス5)です。アスリートでない普通の女性でも毎日10マイル(16km)走るようなハードトレーニングをしていると無月経になる可能性がある(レファレンス6)、という話です。

「身体活動量に比例してエストロゲンが減少」という話ではなく「身体活動量が多すぎる場合」限定、それも摂取エネルギーとの相関であり摂取エネルギーが少ないアスリートの話で、摂取エネルギーが多ければ無月経にはならないのです。

つまり、乳がん患者が食事を変えずにウォーキングのような軽い運動をしただけでは、エストロゲンが減少する可能性はかなり低いと思われます。

しかもこれは閉経前女性の、卵巣からのエストロゲン分泌の話です。



閉経後の女性のホルモンレベルを運動群とコントロール群で比較した文献(レファレンス38)では「有意差はない」程度に下がった、という結果でした。

そしてこれは「濃度」の話。エストロゲン総量がどれぐらい作られてたのか、という視点からの論述はありません。

閉経後は脂肪細胞でエストロゲンが作られるので、月経のようなホルモン量の指標がありません。

アロマターゼ阻害剤の副作用で関節痛が出たり骨粗鬆症になったりする人は、アロマターゼ阻害剤服用以前は軟骨の再生や骨の分解予防に寄与するエストロゲン量が多く作られ、消費されていたと推測できますが、そのあたりの説明がないのです。

ただ、閉経後はエストロゲンは脂肪細胞でアンドロゲンから作られますので、体脂肪を減らせばエストロゲン生成量は減るようです。実際、レファレンス38にもそう書いてあります。そういう意味で、もともと体脂肪量が多い人には、運動も効果があるのかもしれません。

しかし肥満予防はむしろ食事で行うべきでしょう。脂肪分が多い食事はエストロゲンを増やすとの論文も多数あります。Holmesさん達のグループでは違う結果(脂肪分が多い食事はエストロゲンを減らす)でしたが、他のグループは軒並み脂肪摂取とエストロゲンの正の相関を指摘しています。

そのため、エストロゲンを減らしたければ脂肪分の摂取を控えた方がいいであろうことは予測できます。




4.「15MET/wk以上は横ばいだった」については明らかなウソです。グラフにしてみましょう。
    Photo_20190724160901    
    

確かに身体活動量9MET/wkまでは下がっています。しかし15MET超えると、死亡リスクも再発リスクも上がっています。

それを無視して、横ばい(flat)であると言い切ってしまっています。


なのに5.では上限を設けずに運動を勧めている。



これは一体どういうことでしょうか?



15MET/wk超えると死亡率、再発率が増加した分は、上記のインスリン拮抗ホルモン以外にも、インスリン様成長因子(IGF-1)の影響が考えられます(レファレンス40参照)。

論文中では有意差はないとされておりますが、IGF-1濃度が高いと死亡リスクも再発リスクも若干上がっています。

同じ文献では、エストロゲン濃度が低い方がむしろ死亡リスクが若干上がってます。これも有意差はない程度ですが。

エストロゲンに関しては、濃度ではなく総量で考えれば納得がいきます。

エストロゲン受容体が多い、或いは活発であるような、エストロゲンの消費が多い人は、アロマターゼによるエストロゲンの生産が追い付いておらず、空腹時のエストロゲン濃度は低くなる、という可能性があるのではないでしょうか。

そして身体活動とエストロゲンの関連についてはこちらの論文が参考になります。

The role of cytokines in regulating estrogen synthesis: implications for the etiology of breast cancer


運動すると分泌されるマイオカイン、インターロイキン6(IL-6)が酵素であるアロマターゼを活性化し、エストロゲンの分泌を促すとのことです。

むしろ、運動で乳がん細胞中のエストロゲンは増える、と。
 

Bcr4251    



2005年以前に発表された論文なので、世界的に有名な研究者であるHolmesさんがご存知ないはずはないと思うのですが。

一方、IL-6は卵巣においてはアロマターゼ活性を阻害するようです。女性アスリートの月経障害にも関係している可能性があります。


また、IL-6そのものにもがんを進行させる作用があるそうです。活動量が増えると死亡率も再発率も上がるのはIL-6の増加が影響している可能性もあります。

IL-6だけではありません。

成長ホルモン(GH)もインスリン様成長因子(IGF-1)も、乳がん細胞を増殖させます。また、アディポネクチンというサイトカインには抗がん作用があり、低アディポネクチン血症は乳がんの発がんと関連がありますが、アディポネクチンは握力や脚伸展筋力と逆相関の関係にあり、運動して筋力がつくと逆に減ってしまうのです。

さらに、動き過ぎるとインスリン拮抗ホルモンであるグルカゴン、カテコールアミンなども分泌されます。上記のようにこれらはインスリンの作用を阻害し血糖値を上げますので、がん細胞の増殖に繋がります。

このように、運動するとがん細胞を増殖させる方向に働く物質が多くあります。

運動して分泌されるサイトカインの中では唯一、SPARCという物質には抗がん作用があるようです。しかし大腸がんでは運動でのSPARC分泌による予防効果は確認されているのですが、乳がんでは論文を検索しても殆ど出てきません。「化学療法(nab-パクリタキセル)の効果を向上させる」程度のようです。

以上の理由により、「身体活動量が増えるとエストロゲンが減り、再発リスクも死亡リスクも下がるので乳がん患者には運動を勧めるべき」は殆どウソであることがわかります。



ところで。

私のような素人が読んでもわかるような論文のウソを、どうして厚生労働省の優秀な官僚の皆様には見抜けなかったのでしょうか?

或いは、厚生労働省が参考にしたという書籍

「がんに効く」民間療法のホント・ウソ

の著者である医師達には、何故見抜けなかったのでしょうか?

おそらく、見抜「け」なかったのではなく、見抜「か」なかったのです。

ハーバード大学、或いはその研究資金を提供したアメリカNIHに対する「忖度」ですよ。

なにしろ日本の医療は中曽根政権時のMOSS協議以降、アメリカ追従せざるをえない状況になっているので、否定するのは難しいでしょう。

このあたりもそのうち書きます。



それにしても、乳がん患者はいったいどれだけバカにされているのか。

以前、乳がん患者には運動がいいとする論文を検証し、QOL改善だけじゃん!と指摘しましたが。

今回は、もっとひどい結果となりました。悪化する可能性を隠しているとは…。

はぁ~…ため息が出ます。

ため息とはこういう時に自然と出るものです。わざわざ出すものではありません。



しかし。著者のHolmesさん、実は根はいい人なのではないかと思ったりもします。

何しろ、レファレンスのチョイスが最高です。しっかり読めばカラクリが分かるようになっています。

新元号発表後にネット上にいろいろ噂が流れましたが、それに近いものを感じました。

レファレンスを読んでいて、とでも勉強になりました。紹介して頂き、ありがとうございました。



せっかくの頭脳と知識を、忖度論文にしか生かせないのはもったいないとは思いますけども。

2019年7月 4日 (木)

手術を受けました

今回も「論文の読み方」シリーズは一旦お休みにしまして、乳がん治療の途中経過の報告です。

前回の記事に書きました通り、手術を受けました。

5月の下旬に受けて、3週間ほど入院したのち退院いたしました。

今は、通院治療を受けております。



右の植皮部分がなかなか生着せず、いまだにガーゼのお世話になっていますが、とりあえずがんの塊はなくなりました。

しかしまだ取り切れてないものもあるので化学療法を勧められています。来週までに回答を出さねばなりません。

というわけで今、抗がん剤についていろいろ調べています。

「抗がん剤批判してたくせに何を言ってるw」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし最近は毒性の高いアンスラサイクリン系は使わない、と書かれたパンフレットを目にしまして、ではそれ以外は毒性は低いのか、比較してみるとどうなのか?気になったので試してみることにしました。毒食らわば皿まで、です。



手術についても、自分が実際に受けてみるまでは分からなかったことが沢山ありました。

何しろ身体の一部を切り取るのです。乳がんの場合、乳房を取って皮膚を縫い合わせますが、かなり無理やり引っ張っての縫合なので、肩が前に下がり、胸郭が狭くなったような感じがします。これは想像しておりませんでした。

特に私の場合、左右同時に切り取りましたので、片側だけの人よりもひどくなっていると思います。

しかも右乳房切除部分の植皮を下腹から切り取ったのですが、そのお腹の傷もまだ伸ばすと痛むので、どうしても前かがみになってしまいます。姿勢が悪いと血行も悪いし気分的にも落ち込みます。そろそろこのあたりのリハビリも始めないといけません。



そして、腕の運動障害(乳がん手術後の一般的な運動障害についてはこちらをどうぞ)。

右も左も、傷口のひきつれで腕が上がりません。リハビリ必須です。

以前、五十肩気味になった時にリハビリで治した経験がありますので、今回もそのつもりでおりましたが

右はともかく、左側は神経にもがん細胞が絡みついていたそうで、神経の一部(おそらく肋間上腕神経)を切除したとの説明が医師からありました。

そのため、術後殆ど痛みを感じなかったのは良かったのですが。左側はひじを上げようと思っても肩の高さまでしか上がりません。右手で左ひじを持ってあげると、肩より高いところへも上がるのですが、いかんせん脳からの指示が腕に届かないのです。そして左の二の腕は痛み同様、熱さも冷たさも感じず、ただただ痺れただけの状態になっております。

最近ようやく、背中を使うことで左ひじも上がるようになってきました。

こうしたリハビリは個別には行うべきだと思いますが、某ヨガのように集団で行う必要はありません。



そして、例の身体活動と乳がんに関する論文で、ウォーキングやジョギングをする人ばかりだったのは何故か、ようやく理由が分かりました。

あの論文はデータが古いので、ハルステッド手術やリンパ郭清術を受けた人の割合、かなり高いのではないかと思われます。神経を切断された人も多くいたのではないでしょうか。

手が動かなければ、球技全般、出来ません。テニスもバスケもバレーボールも野球もソフトも。せいぜいサッカーぐらいでしょうか。

エアロビクスはじめ、ダンス系も厳しいでしょう。

水泳も同様。筋トレも困難。

そもそもリンパ郭清をした患者はリンパ浮腫予防のため、激しい動きで汗を大量にかくような運動は行わない方がいいのです。

結果、ウォーキングや軽めのジョギングに落ち着くことになります。

もちろん、どれもこれもやろうと思えば「出来ない」ことはありません。しかし手が上がらないと着替えも困難で、被り物の服(Tシャツなど)が着れずに前開きのものばかりだったりします。これではウェアも選べません。



私の場合、手作業さえ出来ればいいので、手術後も何とか生活は出来そうです。抗がん剤の副作用は心配ですが、これについてはまた後日。



今回の手術は、いろいろ説明を受けて納得の上で受けたものでしたが、こういう後遺症が残ってしまうので、やはり手術を受けるのはよく考えてからの方がいいとは思います。

例えば、こんな本があります。

「乳がんです」と言われたら、あわてて切ってはいけない!

清水市民病院で手術を受けた人のインタビューが載っているのですが、実は清水市民病院では大変なことが起きていたようです。病院もしっかり選ばないといけません。

また、近藤誠医師監修のマンガ

医者を見たら死神と思え

には「検査」と偽って乳房全摘出してしまう、という悪質な医師の例も載っていました。

こういう悪どい医師らがいるから、セカンドオピニオン必須なんですよね…。



「手術」というものは「腫瘍を切り取ることで骨転移や悪液質への進行を防ぐ代わりに後遺症が残る」というメリットもデメリットもあるものであると同時に、病院側が「稼ぐ」手段でもあるわけです。

そのあたり、患者はしっかり考えておかないといけません。



何しろ、手術がもし失敗してしまった場合、被害を被るのは患者側なのですから。

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  • がん対策推進基本計画
    厚生労働省が平成24年に発表したもの。これによると、治療せずに様子を見る「経過観察」はしちゃダメ!なのかな?なんで?w
  • 国立がん研究センター
    食事療法については何も載っていません。アルコール摂取を控えましょう、肥満に注意しましょう、ぐらい。

Sage's Music List

  • サラ・ブライトマン: 神々のシンフォニー
    日本盤のみボーナストラック追加。
  • 3/8にリマスター発売。
    Pink Floyd: 狂気
    まさに「狂気の沙汰」ですね。
  • Walk This Way
    RUN D.M.C.:
    エアロスミスとのコラボ。
  • Somewhere I Belong
    LINKIN PARK: METEORA
    あるプログラムでの使用曲。
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