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2019年8月15日 (木)

乳がん患者向けヨガの問題点

前回、リハビリやリンパドレナージは病院で個別に行い、教えてもらって自分で行うのが望ましい、そうでなければ自己責任で好きなことを、と書きました。

では乳がん関連で多い、「乳がん患者向けのヨガ」はどうか?

私は勧めません。というかむしろ、やらない方がいい。

何故か?

今回はそのあたりをもっと掘り下げたいと思います。


BCYI(Breast Cancer Yoga Institute)のサイトには、こんな画像が表示されています。


Photo_20190808165901  Photo_20190808165902

しかしこれらのポーズは、BCYIの関連団体「日本ヨガメディカル協会」で紹介されている本「メディカルヨガ―ヨガの処方箋」のがんの章(12章)には載っていません。この本にはこんなのが載ってたりします。

Photo_20190808165903 


第一回International Yoga Therapy Day(2018.7.5)のララ先生のクラスは、実践はありませんでした。座学だったので途中で気分転換を兼ねたストレッチのようなことはしましたが。



そこで疑問に思いました。乳がん患者のためのヨガに「標準」ってあるんでしょうか?

試しにGoogleで「breast cancer yoga」と検索してみたら、サイトも動画も大量にヒットしました。

例えば動画ですと、

アメリカのジョンズホプキンス大学のグループのものらしい「LiveWell After Breast Cancer」という動画はイージーオプション入りのサンサルテーションに様々なポーズを入れ込む、いわゆる「アシュタンガヨガ」。

Under Armourのトレーナーさんが担当されてますので強度高めです。最初に"You are performing the exercise in this video at your own risk. "(このビデオの演習は自己責任で行ってください。)との注意書きがあります。



それに比べるとBreast Cancer Heaven(イギリスの慈善団体)の動画はかなり強度の低い「gentle」な(優しい)ヨガになってます。プロップス(ブロックなどの補助具)を多用したリストラティブ系。54秒あたりに"If you feel any discomfort, then you stop" (不快に感じたら止めてください)との注意が。




こちらの本はアメリカ人ヨガ講師によるリストラティブ系ヨガですが、上の動画よりもハードなアサナがいろいろ入ってます。シーケンスは特に記載されてないので、好きなアサナをどうぞ、ってことでしょうか?英文なのでまだよく読み込めてないのですが、19ページに "Always stop for any sharp pain, increased swelling or discomfort. "(鋭い痛みがあったり、腫れが増大したり不快感が増した場合は常に停止してください。)との注意書きに下線が引かれてあることは確認しました。「なか見!検索」でも読める範囲です。

Restorativeyoga
アサナはこんな感じです。ERYT500がどういう資格なのかが分かりますね。リストラティブヨガはアイアンガーヨガとは別物のようです。
002-2_20190815163301

001-2_20190815163301
各アサナ毎にBenefitsが書かれています。下記画像はアルダチャンドラ(ハーフムーン)のBenefits。
001-3

機械翻訳しますと


利点
安定性を構築し、調整を改善します
調整とバランス感覚を改善します
リンパ節へのリンパの循環を促進します
体の中心にあるすべての筋肉(腹部、足首、太もも、to部、脊椎)を強化します
広背筋、斜筋、三角筋、台形筋を曲げて強化し、径部、ハムストリングス、ふくらはぎ、肩、胸、背骨を伸ばします
ストレス解消に役立ちます
股関節屈筋を開く腕を伸ばしたときに胸部全体を伸ばします(上下)


これが乳がんにどう影響するのかは分かりません。2014年出版。

下の画像はベルリンの大学教授が出版した本。チャプター毎に目的別の短いシーケンスを紹介しています。上の本より強度は低い印象。アメリカの方々は強度高め、ヨーロッパ系の方々は強度低めを好む印象です。

Yogaandbreastcancer

画像は白黒で数も少ないですが、アサナはベーシックなものが多い印象。

 003-2_20190815170001

 004-2  
各章の末尾にこうした表が。
005-2

こちらは機械翻訳だと読みづらかったので、読みやすく変えました。


早見表
第7章 地面から始めよう:姿勢の改善
シャンティアサナ 姿勢柔軟性に慣れるのに役立ちます。
仰向けのヤシの木の姿勢 胸を広げ、呼吸能力を高めることができます。
背中を捻る姿勢 脊椎下部の痛みに苦しんでいるすべての人のための非常に効果的な運動。
股関節の回転 股関節の可動性が向上します。
仰向けの木の姿勢 骨盤を開き、すべての座位姿勢を改善します。
仰向けでの膝の回転 膝関節の骨と靭帯を簡単に調整できます。
膝を胸に 息を深くし、腰椎骨間の間隔を広げます。
脚と腕のストレッチ リンパ郭清後のバイタル組織液が循環に戻り、柔軟性が向上します。脚と腹部の筋肉の柔軟性と強度を高めます。
背側のライオンの姿勢 首と肩の筋肉を強化し、二重顎と戦い、そして気分を改善することが知られています。


最初に2008年から2009年にかけて手術後の乳がん患者100人以上を対象とした研究を行った旨が書かれてました。それを元にした手術後のリハビリ目的のもののようです。2011年出版。

アメリカのDana-Farber Cancer Instituteのサイトでは上半身だけのヨガストレッチを推奨。

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どれもかなり違いますよねぇ。

普通のヨガのイージーオプションとどう違うの?どこが乳がん患者向けなの?

もう、何がなんだか。




結局、「乳がんヨガ」というものを思い立ったものの、何が効果あるのかがさっぱりわからない。

そう、医学的根拠がないので、皆、勝手に好きなことやってる。

体脂肪減らしてエストロゲン対策とか、肉体的にも精神的にもリラックスとか、リンパ浮腫対策とか、手術後の運動障害からのリハビリとか。

ただそれだけ。

そしてそれらが本当に効果出てるか、なんてどうでもいいんです。

ネットスラング風に揶揄するなら、これらは皆



「 ぼ く の か ん が え た 

  さ い き ょ う の に ゅ う が ん よ が 」 。



可動域が広がり、術後のリハビリに繋がることは確かでしょう。

しかし何度も言いますが、「乳がん」そのものの治療に繋がるような「医学的根拠はありません」。

どれをやっても生存率が上がるわけではないし、腫瘍サイズが小さくなるわけでもありません。

これらは全て、その指導者の好みで選んでるだけです。

その「自分好みのヨガ」を、動画を撮影してアップロードしたり、乳がん患者に指導して稼いでたりするわけです。



一方、乳がん関連ヨガで「痛みが出る」根拠はあります。成長ホルモン、IGF-1、TNF-α、IL-6その他のサイトカインの分泌による腫瘍の増大です。以前の記事で書きました。

IL-6、TNF‐αはヨガでは増えなかったという論文はあるようですが。それ以外のホルモン、サイトカインは分かりません。

乳がん関連ヨガには、上記のように、痛みや不快感が出たら「止めてください」との説明があるものがあります。

注意書きをわざわざ入れる、ということは「可能性がある」ことの証です。

その痛みや不快感はなぜ起こるのでしょうか?原因も分からないのに勧められたって、怖くて受けられません。

腫瘍が大きくなって神経を圧迫してきている可能性だってあるんです。

実際私も、痛みが出ました。他にも痛みが酷くなった人がいることは上記「メディカルヨガ―ヨガの処方箋」の202ページにも書いてあります。

僅かに残った腫瘍がもし増大しても、手術で神経切ってたら痛みも感じないかもしれません。だから痛みを訴える人が少ないことの理由の一つである可能性はあります。


乳がんになったヨガインストラクターもいます。ネット上探しただけで数人見つかります。

彼女らは何故、乳がんになったのでしょうか。ヨガによる乳がんリスクの低下はなかったのでしょうか?

彼女らが乳がんになる前に行っていたヨガは、乳がん患者向けヨガと一体どう違うのでしょうか?



アメリカでは、がんで有名な病院は軒並みヨガを導入しているようです。これはおそらく「手術のマイナスイメージを避けるため」だと思います。

「乳がん手術後は『運動障害からのリハビリ』や『リンパ浮腫予防のためのリンパドレナージ』をしましょう」と書けば「え?運動障害?リンパ浮腫?そんなことがあるの?手術ってコワイ!」ってなりますよね。

ところがこれを「手術後はQOL向上のためにヨガをしましょう」となれば「そうだよね、入院してると気が滅入るからね」なんて納得してしまうでしょう。

そう、「ヨガ」という言葉のイメージを利用しているのですよ。特に乳がん関連のヨガが多いのは、中高年女性が多い乳がん患者達は「言葉のイメージに左右されやすい層」だと思われているせいでもありましょう。

リンパ浮腫予防や手術からのリハビリだけなら、無治療の乳がん患者や、ラジオ波焼灼法や陽子線治療など「手術以外の治療」を選択した乳がん患者には、全く関係のないものです。

同様に、化学療法中や放射線治療中の疲労感や倦怠感を軽くするためであれば、それらの治療を受けてない人は関係ないはずです。

しかし、「リンパ浮腫予防」も「リハビリ」も「疲労感の改善」も、更には「肥満予防」も「フレイル(虚弱化)予防」もすべてひとまとめにして「ヨガ」にする。やりすぎて悪化する可能性はそのままに。

個別にやるよりその方が楽だからでしょう。ヨガの「万能感」がなせる技ではありますが。




こんなこと書いている私も、ヨガは好きです。だからこぞ、効果があって欲しいとの期待を込めて、あちこち調べました。

pubmedでも調べましたし、BCYI(Breast Cancer Yoga Institute)のサイトの「医療者の皆さまへ」「臨床情報」からの

厚生労働省のサイト『「統合医療」情報発信サイト』ヨガへのリンク、「新生物」に掲載されている論文も幾つか読んでみました。

しかし、

一見効果あるように見えても

コントロール群(対照群、ヨガを行った群との比較のためのグループ)が何か他のことを行っていて、そのせいでグループ間で有意差ありとなった可能性があるものとか、

コントロール群の方がステージが高く治療歴が長かったりとか(そりゃ悪い数値も出るでしょう)、

ドロップ率30%近いとか。3割の人が継続不能って…痛みが出たりして止めた人が多かったのか、或いは都合の悪いデータを排除した可能性もないとは言えません。どちらにしても信用できません。

或いはコルチゾールやTNF-αの値、うつ状態からの改善や睡眠障害の改善など、ある調査では有意差が出たものが、他の調査では差が出てないとか

何かいろいろ怪しかったりします。

実験に使われたヨガの内容も、論文によってバラバラですし。



瞑想を含めたヨガを8年以上続けると、左脳の前頭前野に変化があり、認知症の予防につながる可能性があるという論文はあります。瞑想ならQOLは上がる可能性が高いし、悪影響は殆どないものと考えられます。しかし、瞑想法を具体的に指導しているがん患者向けヨガは、いままで探した中では見つかっていません。

瞑想だけなら、座禅でも良さそうです。座禅は、ヨガの技法を仏教の修行の1つとして取り入れたものです。パドゥマアサナでの瞑想(サマーディ)が「禅定」と訳され、転じて「座禅」となったもの。ヨガで一番重要だからこそ、取り入れたのでしょうね。今では「マインドフルネス」などと呼ばれ、海外にも広まっています。



呼吸法も問題です。ヨガの呼吸法は効果ありそうだけど、教えるのが難しい、それ以前に学ぶこと自体が難しいので、教えられる人が殆どいない、そんな状況です。

だから乳がん患者向けヨガに関わる方々はやらないのです。そこまでヨガを極めてないから。

「副交感神経を優位にするので呼吸は重要!」とか言いますが、呼吸の仕方によっては交感神経優位になることもあります。

最近、交感神経は乳がん細胞に関係してるとの報告が出ましたから注意が必要です。

また、呼吸法の指導を間違うと過呼吸になることもあるそうですし、長期的に間違った呼吸法を続けると横隔膜を傷つけたりすることもあるそうです。

そうなった場合に対応できますか?それとも自己責任ですか?


さて

Googleで「乳がんヨガ」と入力すると、こういう表示が出ます。

 Photo_20190801122701

そう、まず出てくるのが「指導者養成」。

それは

乳がんヨガは「受ける側」の「乳がん患者」のためのものではなく、

「資格取得して稼ぎたい人向け」…つまり「教える側」のものであることを意味しています。

本当に「乳がん患者」や「乳がんサバイバー」に受けてもらいたいなら、そういう人達の注意を惹くような見出しを付けるはずですので。



何故か?

お分かりですよね。

ただの「資格商法」です。

1人1000円程度の参加費用での乳がん患者向けヨガを行うより、1日7時間3万円の指導者養成の方が儲かるから。

引っかからないでください。君子危うきに近寄らず、です。

これに関する話は長くなりますので、また次回。



どうしてもヨガをやりたい乳がん患者さんには、こちらをお勧めします。

この本の最後の方に、ヨガのシーケンスがいろいろ載っています。がん患者のためのものはありませんが。

Photo_20190809220701

このぐらいの出費なら、まだ許せるでしょう。呼吸法についても少し載っています。

この本では分からない、という方はお近くのアイアンガーヨガのクラスを探してみて下さい。

アイアンガーヨガの指導員は個別対応可能な方ばかりですので、相談に乗ってくれると思います。




乳がんの治療には、いろいろコストがかかります。

だから、資格商法ごときに散財してしまうのはもったいない。

お金はもっと有意義に使いましょう。



次回は、どうしてこんなに「乳がん関連ヨガ」が溢れているのか、もっと深く掘り下げたいと思います。

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  • がん対策推進基本計画
    厚生労働省が平成24年に発表したもの。これによると、治療せずに様子を見る「経過観察」はしちゃダメ!なのかな?なんで?w
  • 国立がん研究センター
    食事療法については何も載っていません。アルコール摂取を控えましょう、肥満に注意しましょう、ぐらい。

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